渇いた音が部屋に響く。

殴られたのだと、数秒後ようやく理解したと思えば、胸倉を強い力で引き寄せられた。


その腕を、和早は悲しげに見つめた。





「家より……故郷より、幕府の方が大事かッ! それほど長州(ここ)が憎いのか!」


「憎いなど、あるはずがありません。私はずっと、兄上や佐上……それにこの地が好きでした」



ずっと、ずっと。
生まれた境遇が違ったなら、もっと好きになれたかもしれない。


情勢が違ったなら、幕府と長州はもっと歩み寄れたかもしれない。








けれど、自分の心は騙せない。




「私は、あの場所が一番好きなのだと思います」




義断を。
その願いを込めて、ぐいと顔を上げた。






「……わかった」


「…え、」






「お前を、勘当する」





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