それから二日後の夜。



有真の呼び出しをうけた和早は、足場に兄の部屋へと向かった。


遠慮がちに障子を開けると、室内は書簡等が散乱し放題。

有真はその中で机に向かって何やら書き物をしていた。




「兄上、こんな夜遅くにいったい何の用が……」


有真の傍らに座り、顔を覗き込む。
蝋燭に照らされた表情は、少しだけ窶れていた。




「今日、内々に幕府の使者が訪ねてきた」


「…幕府の?」


「ああ。長州の領地、十万石削減だそうだ。ま、予想はしていたけどね」



ちらと手元の書簡を見て苦笑いする有真。
そこには、葵の御紋が印されていた。

和早は、斎藤が長州に来た理由はこれだろうか、と勘繰った。


ありえなくも、ない。








「当然、了承したのでしょう?」


「いや……拒否したよ。私は争い事を避けるために了承すべきだと言ったんだけど、他の人がね」


「また桂ですか」


「そ。よくわかったね、和早」



そりゃ何も聞かなくたってわかるわ、と毒つく。
後にも先にも、有真の意見を覆す輩は桂小五郎ただ一人。



和早は内心舌打ちした。




.