「あの歳にして、初恋だったんですけど……初恋は実らないって本当なんですね」



「……」



どう返してよいのかわからず、同意の笑みを作るだけに留まった。





思い出話はもう、彼の口から語られることはなかった。





このままではいけない。
人も疎らになってきた中、そろそろ戻ろうと思い立つ。

長居は必要のない情を生むと、己を諭した。


たとえ彼が連れ戻そうとしても、自分にはもう意志がない。




だから――。





「京に戻る頃、あの店の店主に出立を知らせてください」




すみません





「店主に報告され次第、私もその後を追います」





最後の偽りを、許してください








「それまで、何事も詮索されませんよう、お願いします」





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