斎藤は少し間を置いて「俺はね」と話し出した。












斎藤は元々、とある藩に仕えていた。

今のような軽い調子ではない、“真面目な斎藤”がそこにいたのだ。






斎藤には惚れた女がいた。


名を、春。


平民ながら、したたかで優しい雰囲気を持った賢い女だった。


出逢ったのはいつだったか。
多分、祭の時だったと思う。



ただ、彼女には決めた男がいた。

男を語る彼女の口ぶりから、本当に愛し、愛されているのだと思った。




男は斎藤と同じ藩に属す者で、斎藤は程なくしてその事を知った。







“引こう”


そう言い聞かせ、仕事に集中しようと思った。
が、できなかった。

それまでこなしていた職務を全うできなくなった。



なぜ。
どうして。
俺はそんなに脆い人間だったのか。




意志と反して
失意に身を染めた。



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