宿を営んでいる父の旧友を訪ね、ひと部屋貸して貰った。 察するに、この宿で一番良い部屋。 旧友の、しかも大名家の娘ならこれくらい尽くさねば、という計らいだろう。 ちょっとした予約客がいるので目立たないように、とのことだった。 「で。兄上達に聞かれてはまずいことでもあったのか? だからわざわざ城下まで…」 「いえ…! あ…、まあ…」 「どっちだ」 「……はい、あります」 佐上がぐい、と拳を作る。 父が愛用していた臣下にしては些か情けなくも見えた。