慶応二年(1866)二月
『君も長州について来てくれないだろうか』
そう、伊東に誘われた。
近藤や伊東を含め、幕府のお偉方も同行するこの旅路。
長州の領地を十万石削減するという処分案が決定し、それを伝えに行くのだそうだ。
だが、面倒事は大の苦手。
元々協調性を備えていない斎藤にとって、伊東の申し出は災難に等しかった。
けれど何となく頷いてしまった。
そのことだけが、こうして旅路についていながら後悔して止まない。
「(…さすがに長旅は疲れるな。というか、城まであとどれくらいあるんだ…?)」
季節にそぐわない暖かな陽射しを仰ぎ見る。
こんなところで、いったい何をしているのだろう
不意に過ぎった思考。
「この生活も、意外と楽じゃないな…」
思わず漏らしてしまった言葉に、斎藤は「ふっ」と笑んだ。