翌朝、女だという理由で特別に与えられた小部屋で和早は目を覚ます。

扱いは幹部級。
申し分もないが、全くの新人が破格の待遇を受けることに対し不満を言うものがいないか心配だ。



「まあ、いいか……」



とりあえず身支度を整える。
男相応に髪を結い上げ、黒を基調とする衣服に身を通した。



「これでよし。あとは…、ん?」



襖の隙間から漂う、酒の匂い。
人一倍鼻の利く和早は顔をしかめる。

その違和感を確かめるため外に出ると、ちょうどそこに藤堂平助の姿があった。



「あの、どうかしたんですか」

「ん? ああ、あれ見ろよ」



藤堂は和早を見るなり柔らかく笑み、顎で母屋の方を差した。



「あれは……」



あの日──新選組を訪れた日。
すこぶる柄の悪い集団の中にいた男……名は、何といったか。



「知ってんの、芹沢さんのこと」



不思議そうに首をかしげる藤堂。

そう、芹沢だ。



「偶然、見かけただけです」

「…そっか」



あの人はいつもああなんだよ、と藤堂は深いため息をついた。

真昼間から女と酒に溺れ、金子を調達するにも権力をかざし、暴力に訴えるのだという。



「おかげさまで浪士組の評判はどん底。浪士ってだけで毛嫌いされんのにさ」



半ば自嘲気味に笑う平助。



「………」

「ま、あの人たちのことは近藤さんと土方さんが何とかするさ。てことで新崎、ついて来て」

「…はい?」




有無を言わさず手を引かれ、屯所を出た。