その後、彼女はまた電話をかけると言って、携帯電話を一旦切った。


ぼくは携帯電話を切った後、少し呆然と窓から空を見上げた。まだあの虹が空に掛かっていて、もしかするとあの虹は本当に別世界に在る虹かも知れないなと思った。


さて、いつまでも呆然としているわけにもいかないのでぼくは一階に降り、太陽の暖かい光に包まれたソファーで気持ちよく寝転んでいる母さんを叩き起こした。


母さんは「私は長時間運転をしていたんだぞ」と文句を言ったが、ぼくはそれを無視して、周りの適当な所に置いてある家具や自分の荷物の整理、配置などを始めた。あの人はきっとぼくが叩き起こさない限り明日の朝までソファーで寝ているだろうなと、文句を言い続いている自分の母親を見て思った。


ぼくが引っ越し作業を淡々と行なって10分、まだ文句を言っている母親をぼくは、本当にこの人はぼくの母親なのだろうかと呆れながら思っていると、ポケットの中にある携帯電話の着信音が部屋中を鳴り響いた。


「あら、アンタに電話なんて
 珍しいわね。何かあったの?」


うるさいな、とぼくはからかう母さんに一言文句を言って二階にある自分の部屋に、階段をどたどたと音をたてながら駆け込んだ。


「も、もしもし…」


「私です。
 新しい住人さんの友達一号です」


友達一号って何だよ、とぼくは心の中で思いながら、何だか嬉しくなった。今さっき知り合ったばかりなのになと自分が可笑しくて苦笑した。


「うん、20分ぶり」


「あはは、そういえば
 新しい住人さんの名前、
 まだ聞いてなかったですね」


そういえば、ぼくもまだ彼女の名前聞いてなかったのを思い出した。