父が死んだ日は覚えている。勿論、母が死んだ日も。父の棺の前に佇む母の呆然として虚ろな目も、覚えている。
今の私だ。


母が見たら何と言うのだろう。不憫だとか言うのだろうか。
若くして嫁ぎ、唐突に夫をなくした娘を哀れに思うだろうか。
でもねお母さん私、全然怖くないの。
不思議、ずっと納得できなかった儀式なのに、いざ自分の番になってみたら、こんなにも心が静かなの。

貴方と一緒になったこと、全然後悔してないよ。私のこと可哀相だなんて思わないで。
自分のせいで私がこんなことをしなきゃいけないんだなんて思わないで。幸せだった。違う。幸せよ?今も、私。

そして棺に火が点いた。
黒く燻っていた火が若木で出来た棺に移り、赤くて綺麗な炎になった。


今私と貴方を隔てているものって何なのでしょうか。空が赤くなっていくのを感じる瞳も、掴もうとしても掴めないことをもどかしく思う指の感覚だってきっと、貴方は、まだ、持っているだろうというのに。