思っているだけで、口には出さない、と言うより正確には口に出す余裕が無い。

荒く息を吐きながら、ほぼ静止しつつある自転車を必死に進ませる。

「あっ」

乾いた銃声のような音と共に後ろから漏れた声。

「どうした?」

「花火…」

「ああ、花火大会今日だっけ」

「私、花火って嫌いなの」

「どうして?」

「消えてしまうから」

意味がわからなかった。

この時はまだ。

思い返せば、彼女は気づいていたのかもしれない。

俺はこの時まだ、子供じみた永遠を信じていた。

そんなもの、ただの幻想だと知らずに。

夏が終わり、秋がやってくる。

もう戻れない、あの日には。