優しい声




何度読んだかわからない絵本…。
明け方近くになって眠りについた桜を見ながら、私と健吾は幸せに浸ってた。

「お腹にいた時に聞いていた柚の声をちゃんと覚えてたんだな」

私の肩を抱き寄せて、耳元に囁く健吾の声が心地好くて、思わず身体を預けてしまう。

「葵ちゃんが絵本を読んでも泣き叫んで拒否してたんだ。
何でなんだろうって不思議に思ってたけど…」

そうなんだ…。
すやすやと寝息をたてながら少し笑って…眠る桜の頬をそっと撫でる。

私が読み聞かせる声を
必死で聞く桜は、時折きゃっきゃっと声を上げながら何度も何度も私のお腹を足で蹴って。

まるで

『もっと読んでよ』

とせがんでるように…。

私が読むのをやめると、途端にぐずぐず言い出す桜に戸惑いながらも、私に何かを求める姿に涙も浮かんでくる程嬉しい…。

母乳を与える事もできない寂しさで潰れそうになってた毎日が浄化されていくような幸せ。

「桜…」

お腹にいた桜に読み聞かせていた時にも、いつも暴れていた。
ポンポン蹴ってくる足に気づいて、順調に育っている事が実感できて嬉しかったけれど。