優しい声

「蹴ったら痛いよ…桜やめて…ね…?

あれ…?」

いつの間にか泣き声のトーンは変わっていて、

「うーうー」

と何かを訴えるような声音。
足を一生懸命動かして私のお腹をポンポンと蹴る仕草にも、汲み取らなきゃいけないシグナルがあるみたいで…。

「…桜…?」

落ち着いて桜の頭を撫でていると、不安ばかりで見逃していた様子に気がついた。

私のお腹を蹴る足は、むやみに暴れてる訳じゃなくて、うまく言葉にできない想いを託しているよう…。

「ごめんね…まだ桜の気持ちをちゃんとわかってあげられなくて…」

何を伝えようとしているのか理解してあげる事のできない私は母親失格だ。
こんなに一生懸命に動いて感情を表してくれてるのに…。

「…絵本を読むしかできないお母さんでごめんね…」

あ…。

もしかしたら…。

慌てて傍らの布絵本を手にして桜に見せた途端。

ピタッと動きを止めて、
じんわりと浮かんでくる桜の笑顔…。

「…やっぱり…そうなの?」

胸いっぱいに溢れる嬉しさにめまいを感じながら…瞳に熱く揺れる涙を拭いながら…。

「そっか…絵本が好きなのね?
…お腹の中でも聞いてくれてた?」

そっと抱きしめて、ようやく落ち着いて笑い声を聞かせてくれる桜が愛しくてたまらない…。