「親父ってバカみたいに優しいから、俺が受験やめるって言ったら すげぇ怒ってさ。子供が金の事なんか気にするな!って殴られたよ」
思い出し笑いするお兄ちゃんの顔は お父さんが笑った時とそっくりだった。
「あの親バカに何言っても無駄だと思ったから、家を出たんだ。じゃないと家売ってまで 高校入れられるとこだったからさ」
…なんて事だろう
兄は自分を犠牲にして 家を守ってくれたらしい。
そんな事 私やお父さんさえも知らなかった。
ましてやお父さんなんて
お兄ちゃんは
ただ家が嫌で出て行った不良息子だと思っている。
もう何年も そう思ってきた。
なのに兄は 私達の事を考えて家を出た
中学を卒業したての15才が たった一人
家を守る為に。
「……泣くなよ〜」
そりゃ泣きたくもなるよ
だって私はお兄ちゃんを恨んでたんだよ
私達を見捨てて遊び回るろくでなしだと思ってたんだよ
なのに
なのに何で
「亜紀は昔から泣き虫だな」
「お兄ちゃん…ごめん、ごめんね…っ」
「俺こそ、置いて行って悪かった。自分から出た手前、家に帰りずらくてさ。家出る時も親父と大喧嘩したし…でも、本当は亜紀に会いたかった。長い間ごめんな」
優しいお兄ちゃんの声
お兄ちゃん、ずっと勘違いしてて
本当にごめんね。

