「…大丈夫だよ」
ぽつりと言った私に 純はゆっくり振り返った
「純だって 今は普通の高校生だよッ 昔の事はよく知らないけど……今の純は、すごく優しいよ…っ」
気付けば、膝に置いた手でスカートを握り締めていた。
中学の時悪い事をしたから 今も普通に過ごせない
そんな純の歯痒さが伝わってくるのに 上手く言葉に出来ない。
純は悪くない、とは言えないが 普通に暮らす権利は誰にだってある。
彼が昔どれだけ悪い事をしたのか知らないが
今は更正しようと頑張っている。
なのに
「…ありがとう」
シャツを羽織った純が いつの間にか私に向き合っていた。
「亜紀には、何となく言っておきたかったんだ」
にっこり微笑む純。
その表情は 明らかに無理して笑っているんだと すぐに分かる。
「手当て、さんきゅな」
私の頭をくしゃくしゃしてから 彼は保健室を後にした。
校庭からは 体育の笛の音がいやに大きく聞こえる。
窓からは やはり生暖かい風が吹き込んできた。

