声の主は、『俺』としか言っていない。 でも、あたしにはすぐに誰だか分かった。 7年ぶりに聞いた声。 あたしは、その声を忘れていなかった。 ううん。 声だけでなく、『俺』の笑った顔や困った顔、意地悪するときの嬉しそうな顔まで、何一つ忘れていなかった。 ――奥平 謙(おくだいらけん)。 私の、忘れられない人。