「これは…ちょっと大変そうね…」

先輩は少しだけ困った様な表情を浮かべてから「でも大丈夫よ。そんなに悪いものではないみたいだから」と云うと僕の右肩を指輪もなにもしていない白い左手でぽんぽんと二度叩くと、手を肩においたまま「今日、この後は?」と聞いた。

金曜日だったが、特に残業の予定も飲みにいく予定もないので、家に帰るだけだとやっとのことで応えると「じゃあ、早速ご飯に連れて行ってもらおうかな」と、年上らしい笑顔で云った。

肩に添えられた掌は温かくて、どういうわけか僕はひどく安心したように大きく「はい」と応えてから、思わず周りを見回してしまった。

幸いなことに誰もこちらに注目している者はおらず、ほっと一息吐くと先輩は面白そうに「大丈夫だよ。大丈夫」と云い、また僕の肩をぽんぽんと二度叩いた。


それから3時間後の夜9時。

僕は先輩に指示された通り一旦家に帰ってシャワーを浴び、私服に着替えてから待ち合わせ場所に立っていた。

同じ市内にある、先輩の自宅最寄りの駅。そのタクシープール近くでケータイから到着した旨をメールで送る。

ほどなく先輩がオレンジ色の軽自動車に乗って現れた。


「OK。キレイにしてきたね。さ、乗って乗って」

と助手席越しに僕に話しかける先輩は、化粧もすっかり落として(いや、しているのかもしれないが、昼の顔とは違った)、ざっくりとしたTシャツにジーパンという姿に着替えていた。