水とコーヒー

「でね、その子は自殺するときに泣きながら謝ったのよ。両親とか友達だった人だとかにね。それと一度死のうと思ったときに言葉をくれて励ましてくれた人に。ごめんなさい、ごめんなさいって。死んじゃってごめんなさいって」

返事をすることができなかった。僕はあれだけ泣いた後なのに、また頬を伝う熱に気がついていた。

「意識がなくなってね、命が終わる直前まで謝り続けてたの。だからね、明るい方にいけなくなって、その言葉をくれた人の方にいっちゃったんだって。それでね、ずっと謝り続けてたみたい。でも、それじゃどうにもならなくって、でもどこにも行けなくってね。今度はどうしようどうしようって泣いてたんだって」

先輩も涙を流していた。後半は嗚咽混じりになっていた。先輩は大きく鼻をすするとハンカチを取り出してまぶたをぬぐい、それから平静を取り戻そうと何度か深呼吸をして、黙り込んだ。

すると少し困惑した様な声で「お待たせいたしました」と店員がケーキを運んできた。僕は店員に泣き顔を見せまいと慌てて窓の方に顔を背ける。

「ご注文の品は以上でおそろいでしょうか?」という無神経だが業務上仕方のない発言に先輩が応じ、店員は去っていった。その気配を後頭部に感じてから、一呼吸置いた僕は改めて先輩に問いただした。