「……っ!」


現実の世界で思わず息を呑む。先輩に握られていた手を翻して自分も先輩の手を強く握った。これは頭の中の出来事なのだと意識するために。そして叫び声を上げたくなるのをぐっとこらえて、必死に数を数えた。

(いちにぃさーん!ごーろくしちはち!いちにぃさーん!ごーろくしちはち!いちにぃさーん!ごーろくしちはち!いちにぃさーん!ごーろくしちはち!)

「この人ね…」

先輩は優しく僕の手を握り返しながら呟いた。そして「…練炭かぁ…」とポツリと云った。

練炭、ここ数年でよくニュースにあがる言葉だった。つまりこの人は練炭自殺したということなのだろうか。

「わかるんですか…?」

いささか驚いた口調で問うと、先輩は事も無げに「臭うからね…」と応えた。


とんとんとーん・とんとんとんとん。

とんとんとーん・とんとんとんとん。