あれ? どこ行くの?
いつもは、電話が終わるまで動かないのに…


私は気になって、電話の子機を持ったまま紘夜の後を追った。



廊下に出たところで、
紘夜は煙草に火を点け、黒いコートを羽織った。



「どこ行くの!?」

思わず、紘夜にそう尋ねる。


紘夜は振り返ったけど、何も応えず、
電話を続けろ、と合図した。



『どこにも行かねぇよ、何言ってんの? お前』

ジュン兄のバカにしたような声が聞こえた。

違うよ、ジュン兄の事じゃないって。


『こんな雨の中、夜になってまで出たくねぇよ』

「雨?」

言われて、窓の外を見る。



微かな音を立てて、雨が降っていた。