「兄様は先に広間に行っていて。私もすぐに向かうわ」

「あぁ、早くな。婚約者をお待たせするなよ」


変わらず、嫌な視線を私に向けつつも、
〝紘夜のお兄さん〟は広間への廊下を歩き出した。


「……婚約者、」

呟く私に、


「そうよ。〝真影夕綺〟には婚約者がいるの。
緋刃のそばにいる〝真朱〟は、じきに消えるわ」


含みを持たせた笑みを浮かべながら、
夕綺さんは〝お兄さん〟の後を追うように、バルコニーから邸内へと戻っていった。



な、んで?
どうして……

夕綺さんの事が、理解出来ない。


助けてくれたと、
あの時は、思ったのに。

なのにーー



色々な思いがめぐり、
どれくらいその場から動けずにいただろう。




「へぇー、コーヤを仕留めにきて、またあんたに会えるとは、
オレはついてるな」


突然、
低く重い声が背後からした。


振り返らなくても、


その聞き覚えのある声に、
体が



震えた。