冷たい雨に咲く紅い花【前篇】


  †


「まさか、こんなところでまた会うとはね」


夕綺さんが、
艶のあるピンヒールのまま、廊下から庭の芝生へと歩みを進める。


私も、
後を追うように、白いヒールのまま芝生に降りる。

慣れない高いヒールで、私の足元はおぼつかないというのに、
夕綺さんは慣れた足取りで颯爽と歩く。


「あなた、名前は?」

「え?」

「名前よ。あるんでしょ?それとも、紘夜に口止めされてるの?
あの時も〝緋〟にあなたの名前が知れないように、紘夜はあなたの名を呼ばなかったものね」


ーーえ?

夕綺さんの言葉に、

あの雨の日のことを、思い出す。


一度、

紘夜は私の名を呼びそうになったけど、
呼ばなかった。


それは、
紘夜が私を嫌になったからだと、

そう、思った。