私の心の中での静止も届かず、
紘夜様は鞄の中を堂々と取り出す。


そして、その鞄の中から、小さな手帖を手に取ると、
部屋の電話に手を伸ばした。


「紘夜様?」

分からず、問う。

だが、紘夜様は答えず、白い電話の受話器を耳に当てると、
大丈夫、とでも言う様に、軽く笑った。



「……達花実織(たちばなみおり)さんのお宅でしょうか?

…わたくし、真影(みかげ)と申します。
実は、お宅の実織さんが私の自宅前で体調を崩しまして、

…あぁ、いえ、今はお医者様に診ていただき、眠っております。しばらく安静にしていれば大丈夫との事です。

…えぇ、安心してください。
実織さんが目を覚ましましたら、またお電話致しますので…」