あぁ…そうだ。

あのお前が俺から離れた時も、
お前は、

そう、言っていた。



今頃気付き、
俺は愕然とした。


「実織様のお兄様、大丈夫ですか?」

心配そうにメイド姿の女性が、俺を覗き込む。

「…あぁ、なんでもない。ちょっと昔の紘夜のことを思いだしたんだ」

すると、
驚いた表情の女性。

「実織様のお兄様は、紘夜様を昔からご存知で?」

「ーーあぁ、高校が一緒だった」


でも、知らなかった。

あいつが、有名な名家の者という事も。
あいつが、家族の事を話さない理由も。

あいつが、大丈夫と告げて離れた理由も。


「ただ楽しく一緒にバカやって、笑って、それで友人だ、などと思っていた」

何も、
何も知らないで

俺は……


「安心致しました」

え?

思いがけない言葉に顔を上げると、
そこには、嬉しそうに微笑む女性がいた。


「紘夜様、あなたと過ごした時は、楽しくしてらしたんですね。一緒に笑ってらしたんですね」


よかった、
と、そう言葉にする彼女は、本当に嬉しそうに笑った。