冷たい雨に咲く紅い花【前篇】


目を閉じ、
甘い匂いに包まれる。


悪くない、
そう、思った。


が、
そんな俺の耳に、




雨音が、
聴こえてきた。




小さな雫の雨音が、段々と強くなる。

まるで、
眠っていた俺の心を、揺り動かすかのようにー…




空から降り出した雨が強くなり、
俺は黒い煙草を取り出し、一本くわえた。


実織のバイトが終わるまで、30分ある。



いけるか?


鈍色のライターで火を点け、煙をくゆらせる。