冷たい雨に咲く紅い花【前篇】



 † ー紘夜ー †


実織を車で待つ間、
俺は座席を倒し目を閉じ、体を休ませた。



眠るわけではない。


と、いうか、
眠ることは出来なかった。



目を閉じると、
色々なことが思い出される。


嫌な記憶ばかりだ。




だが、

ふと、甘い匂いに包まれ、
緊張の糸が途切れた。


実織のバイト先で買った、ドーナツの匂いが、

俺の心を和ませた。