冷たい雨に咲く紅い花【前篇】


最初は涼しい風が段々と暖かい風なり、私を包む。


そして、
紘夜は後部座席から黒いジャケットを取ると、私の体に掛けた。


「紘、夜?」

掛けられた黒いジャケットから、隣の紘夜に視線を移す。


「風邪、ひくなよ」

前を向いたまま、
ぶっきらぼうにそう言うと、紘夜は車を走らせた。



そして、いつもの黒い煙草を取り出し、ひとつくわえる。

慣れた仕草で、火を点けた。



私達を包む、甘い煙草の匂い。




それは、区切りの合図。