冷たい雨に咲く紅い花【前篇】


「実織は嫌なのか?」

車の開かれたドアに片腕をのせ、
中にいる私を覗き込むように顔を近づける紘夜。


紘夜の低い声が、近い。
紘夜の綺麗な顔が、近い。


紘夜の、
甘い煙草の匂いが、近い。




思い出す、煙草の味。

唇に残る、あたたかさ。



紘夜が近くて、

紘夜の顔がまともに見られない。


きっと、

きっと、


私の顔は真っ赤だ。