思った、瞬間ー、


グイッ、と、
力強い腕が、私の身体を引き上げた。



「ーっかやろ!何やってんだ!!」

近くで、怒鳴る声がした。


あの男が、バルコニーの柵の内側から、私の身体を引き上げてくれた。



「ったく、怖さを知らないのが、一番怖いな」

私の耳元で呟く、低い声。


目の前には、男の広い胸。
襟元の釦が幾つか外れ、鎖骨が見える。


今、私がしがみついているのは、バルコニーの柵じゃない。


男の、
人の胸の中だと、気付くと、

一気に、気が抜けた。