冷たい雨に咲く紅い花【前篇】



「こんなに濡れて、風邪をひいてしまいますよ?実織様」

穏やかで、綺麗な声が私にかけられる。



「静、音さん…、どうして?」


静音さんは、
濡れた私の髪や制服を、淡い紫色のハンカチで拭いてくれた。


そして気づく、

静音さんがもう片方の手に持つ、
紅い傘。


この紅い傘は、
あの紘夜と出逢った、雨の夜に私が落としたものだった。


「実織様にこの傘とこの携帯電話を届けにまいりました。
紘夜様が、実織様に返すように、と」


差し出された紅い傘と
鮮やかなピンクのケータイを受け取る。



紘夜が…?

探して、見つけてくれたの?