自分より子どもに寸止めされた事、その時に見せたアザムの瞳……ザザにとっては何もかもが納得できないものだったのだろう。

 その瞬間殺気に満ち我を忘れているザザが立ち上がって、アザムが手放したサバイバルナイフを左手にアザムの背中に向ってくる。

 撃たれた痛みなど無かったかのように、忘れたかのように――

 ベリルが咄嗟に銃を構えが、一番近くに居たラトがレイにシーツで顔までかぶせ顔を隠し立ち上がると、素手でナイフの刃を握り締めてザザを止める。

「ラ、ラト!? 俺を……、俺を裏切るというのか?」
「くっ……そ、そう思うのであれば、それでも、僕は……構わないよ? ――どちらにしてもディル様は……君は“この子”にも負けたんだ」

 痛みを堪えているラトからサバイバルナイフを引き抜くように奪い取る。

「ぐっ、痛っ……まだ分らないというのか!? ザザディッシュ!!」

 ラトがザザの狂気に充ちた青磁色の瞳とそのサバイバルナイフを構えた姿を確認した時、セピア色の瞳は小さく微笑んだ。
 そして一瞬だけ、アザムとベリルに悲しそうな瞳を見せた。

 ベリルは直ぐにアザムを引き寄せて、向こう側が見えないように頭を腕で優しく包み“そうしていなさい”とだけ小さく呟いた。


 
 ベリルの行動を確認したラトはザザの手のナイフを叩き落すと、顎から口の辺りを自分の血だらけの左手で掴み、力いっぱい壁まで押しやった。
 そして腰を飾っていた短剣を抜き横向きにしザザの胸を狙って下から上へ突き上げる。
 
 青磁色の瞳が見開らいたのを、セピア色の悲しそうな瞳で見つめた。

 胸骨の隙間から心臓のみを確実に通したのだろう。ナイフはそのままのため出血は酷くないが、少しずつザザの服は血がにじんでいく。
 
 その苦しそうな表情を冷静に見ながら左手を離しザザを抱え、胸元の麻酔薬の瓶を取り出し中身を口に入れてやると壁にもたれる様に座らせた。
 

 そして、麻酔薬の瓶をベリルに放り投げる。