その言葉で床に目を移すと左の太もも辺りと右腕を打ち抜かれ、痛さと反動で倒れていたのだろう。痛みに耐えているザザの姿が目に入った。



 ベリルの事に驚いていたアザムの姿はもうそこには無かった。


 ずっと手に持ったままのサバイバルナイフを再び握り締めた。
 姿を見た事で怒りを再認識したのか下を向いたまま、さっきよりもナイフを強く握り締めたかと思うと、駆け出してザザの腹辺りに馬乗りになって睨みつけた。

 それに薄笑いを浮かべて先に言葉を紡ぐザザ。

「くく、やっぱ……苦しみは……そう、一度や二度なら怒りや憎しみになる。諦めより……先に行動に……出るだろ?」
「あはは、そうだね。確かにあんたが言った通りだ!! 本当は、心の奥底の傷は表面上で判断され見えないかもな!!」

 アザムは怒鳴り散らすと、少し膝の部分を浮かし持っていたサバイバルナイフを刃を下にして両手で構えた。

「だからだろうか? あんただけは許せない――」

 言葉を言い終わった瞬間アザムは、めいいっぱいの力でザザの顔を目掛けて突くように真っ直ぐに下ろした……――


アザムのライトブラウンの瞳に映ったのは見開いた青磁色の瞳だった。



 部屋には何か硬い物と金属が接触した物音だけがその瞬間響いた……。ナイフはザザの頭部横のコンクリートの床をほんの少しだけ粉砕した。
 アザムが本当はどうしたかったのかは、アザムにしか解らない事だった。

「はぁ、はぁ……僕には……――」

 アザムのサバイバルナイフは勝手に手から落ちるかのように音をたて転がった。馬乗りになったザザから離れ、ふらついた状態でベリルの方にゆっくりと向ってゆく。