その日の昼前、レイは院長室に呼び出された。急いで院長室のある別館の二階へ向うと、二人の声らしきものが聞えている。扉をノックし「どうぞ」の優しそうな声を確認して開く。

 一人は五十代前半白髪交じりのローアンバー(黄土色)のショートで襟足はレイより短い。黒茶色の瞳で人当たりがよさそうで細身の白衣の男性。ここの院長だ。

 そしてもう一人は、金髪のショートヘアの青年だった。
 
 院長がこの医院を青年が頼むより以前からの顔馴染みで、レイを任せられると判断し託したという経緯がある。
 
 そう青年は“六年前の事件”でアザムの命を助け、レイをFBIから解放させた人物。
 青年はレイの姿を見ると、柔らかい微笑みでエメラルドの瞳を細める。レイもその姿に微笑み、小さく頭を下げる。

「お久しぶりです。ベリルさん」
「半年ぶりくらいになるかね? 元気にしているようだな」

 レイやアザムと違い、レイの眼前の青年の姿は六年前と何一つ変わってはいなかった。

 そう、二十歳半ばほどでベリルの姿は止まっている。実際はレイの倍は生きている……彼は不老不死。だからこそ、院長との関係が見た目では判断しかねる状態。




 
「レドリー部屋を借りるが?」

 ベリルの後ろ側にある客間を指差し、院長に訊ねている。

「ああ、かまわないよ。えっと、二人ともコーヒーでいいかな?」

 レドリーは軽く片目を一瞬閉じ、レイに笑顔を見せた。
 レイを呼んだ理由を既に知っていたため、怖がるような内容ではないと分るように合図したのだ。
 
 そしてベリル客間に足を進め後ろをレイが付いて行く。そしてベリルは客間のソファーに座る事を促がした。
 レドリーはコーヒーを二人に淹れて、着席している目の前に置くと、レイは小さく頭を下げ、ベリルは軽く右手を上げる。
 
 そして、レドリーは“ごゆっくり”と笑顔で言い残し、別室から退室すると自分の机に戻ってパソコンをのんびりと見ている。