「ザザ……お前、レイに何をしてどうしたんだ?」

 ベリルのとても冷たいその瞳と凍りつくような空気。

 だがザザもラトもそれに臆す雰囲気は無い。二人もそれなりの場数は踏んでいるのだろう。
 ベリルとは又違う威圧感を二人とも創り出す。
 この先には誰も入れない空間を三人はお互いが競うように創り上げる。


 ザザは小さく笑った後に、青磁色の瞳をベリルに向ける。
 ベリルとは又違う、どちらかといえば無機質な冷たさ。


「これと言って何も、というべきかもしれないし? けど、したかもしれないかな……車で騒いだからちょっと麻酔薬を含ませた。それだけだよ?」
「そうだろうな、で?何を言った――」
「ああー、ベリルはとっくに見た時点で理解してたから、そういう質問のしかたをしたってことねー」

 おどけた様な表情と口調は、きっと誰が聞いても腹立たしくなる言い方をする。
 
 だが言った事は全て嘘ではない。

 そう、ベリルの事もだ。症状をアザムよりも先に判断した。
 だからこそアザムの怒りにまかした声は逆効果だという事を解らせたのだ。


 アザムも麻酔薬を含ませたという状況を聞き、レイの“症状”を見て一定量以上経口投与されたことを推測した。

「おまえレイに副作用が出たときに、少しずつ煽ったな。アザムが敵だと、いつか殺す時期を狙っていると」
「そうだよ。嘘だとも限らないだろ? 君だってレイにあんな事されたんだからさー。恨まない方がどうかしてない?」

 小さく笑うザザの姿は“人間とはそうだとは言い切れない”と言う言葉を、奥底に含んでいる様にも見えた。


 アザムはレイの症状は答えれば答えるほど、恐怖を煽る声でしかない事をちゃんと理解していた。
 しかしどうしても言葉をかなくてはいけない気がした……
 
「僕はしない……復讐なんて一つも考えちゃいない!! 僕には“残る”権利も“逃げる”権利もあった……意思だってちゃんとあった」


 その言葉に一瞬ザザの表情が曇ったような、苛立ちのようなそんな表情を浮かべた。

 しかし、何も無かったようなさっきの様な笑みを浮かべおどける様に話し出す。