ベリルは無闇な攻撃を避ける手段として、自分の腕をわざと刺し身動きを取れなくさせた。
 そして腕からナイフを抜きジックの近くに投げ捨て、ベリルは治ってゆく傷口を見せた。
 ナイフを刺したもう一つの理由でもある。

「という事だから、諦めてくれんかね?」

 傷が塞がってゆく様を見て“素晴らしき傭兵”の秘密を目の当たりにした。
死なない、殺せない事を現実として見てしまった男は驚き、瞳を見開いたままだった。

 

 薄暗い中だが、ジックの驚いた表情を見て無駄な事だと分かっただろうと思い、ここより明るい扉へ向う。

 ベリルが扉に向ってくるのを確認出来たのでアザムは駆け寄ろうとした。

 そんなアザムに「来るな!」と発した瞬間、ベリルは素早くベルトの後ろに隠していた投げナイフを振り向きざまに部屋の中に投げた。

 廊下の壁に血がついたナイフが音を立て床に落ちたと同時に、一瞬声にならない声と、何かが倒れた音が聞こえた。
――私の命が奪えないのならばという事か……

「これも……――」
「分かっているよ……現実の世界であり、この世界での本能ってことでしょ?」

 出来れば命を奪わずにと言う観点では一致している。
 しかし二人の持つ本能はどうしても違いを見せているのが現実。だがこれが一番の判断だとベリルが下した事に、アザムは否定はしなかった。

 ベリルが護る者が“自分”であり助け出す者が“父親”であるレイである事を理解しているから……