そして電気の点いていない部屋を適当に選んでベリルは入ってゆく。

 廊下の蛍光灯は薄暗いため、入り口と窓付近しかまともに見えない。アザムは窓からそっと覗いているが、部屋の様子が理解できないのが現状だ。


 戦い慣れしている者は、人の少しの動きでも察知することが可能であり、探らせない事も訓練されている。

 ジックはわざと誘い出すかのように機材の陰ではなく障害物の少ない真ん中に出てきた。
 そして右掌を自身に軽く仰ぐように二回動かしベリルを挑発する。

 その姿に心で呆れながらもベリルも前に出て、隙を見せない体制で構えをとる。

 ジックはフェイントを含めながら拳で腹を狙ったが、ベリルはその拳を容易に受け止め、思いっきり引きよせた。
 軽く足払いしただけでジックが倒れこむ。

「ふむ、考えたようだが甘いな」

 地に着けられた事が悔しかったのか、立つと同時に太ももに装備していたファイティングナイフを取り出し素早くベリルに攻撃を何度も仕掛ける。

 しかしすべての突きと攻撃を簡単にベリルは避け、がら空きの腹に勢いをつけた蹴りを入れると後ろに吹っ飛ぶ様な感じで倒れた。

 それでも叫びながらナイフを持って、ベリルに向かってくるジックにベリルは一つため息を吐く。
 その後ベリルは自分の右腕にそのままジックのナイフを刺して受け止めた。
 そして小さく笑うと右腕に力を込めたまま左で裏拳で顔に一発入れた後に、ナイフから手の離れたのを確認し左拳でみぞおちを突き上げるように一発。
 
 倒れながらも“まだやれる!”と言わんばかりの顔をしているジックに、苦笑いを一度浮かべた。