中に入ると嫌な雰囲気が纏わりつくような感覚をアザムは覚えた。

たまに消える蛍光灯と、いくつかある部屋がどれも電気が点いていないための不気味さが思っている以上にそう思わせるのかもしれない。

 角を曲がると奥に明かりの点いた部屋が見える。要らなさそうな機材が通路にいくつか並んでいる。
――あの部屋じゃ……?

 その事をアザムが半歩ほど前を歩き注意を払っているベリルに小声で言おうとした。
 その時アザムは軽く横に押されたような感じがしたので顔をそちらに向けたら、上段の蹴りを片手で受け止め押し返すベリルの姿があった。
 
 ベリルは直ぐにアザムを抱え近くにあった機材の裏に抱えて押し込むように隠し、蹴りを入れた人間の所まで近寄った。

 迷彩服を着た黒い短髪の男で体格ががっしりしており、ティーロの三十代半ばはこんな感じではなかっただろうかとアザムは想像した。

 ベリルも体格はがっしりしているのだが、小柄で無駄という言葉に相当する脂肪はもちろん必要な筋肉が揃っているという雰囲気だ。

「お前ベリルって奴だろ? “すばらしき傭兵”とかって言われてるよな」
「そうだが」
「俺はジック。やりあわないか?」

 そう言ってウォーミングアップのように数回足踏みのように動かす男に、ベリルは小さくため息を吐く。
 “やりあう”と言うが喧嘩ではない……殺し合いの事に近い意味合い。

 ベリルはジックの雰囲気を見て少し前まで軍人だったのではないかと推測している。そして先ほどの男‘ルクティ’とは違い『公然の秘密』を知らないと感じている。

「無駄な事はしたくないのが?」
「はい、そうですか……――」
「ちっ! って感じでも無いって事か」

 会話の最中だというのに既にジックの拳はベリルに攻撃を仕掛けている。それを両手を使い掌で受け流すように避けるベリル。
 “強いやつと戦いたい”好戦的という言葉の方が似合う感じがした。