そして涙目でルクティの方向を見据えた。しかしアザムの瞳に映ったのは予想外の光景。
 小刻みに震えているルクティの姿……見開いているルビーレッドの瞳だった。

「お、お前ベ、ベリルだと!? あ、あの化け物か!!」

 名前を知った事でなのか、それとも撃たれた箇所の血が止まってゆく様に恐怖をしているのかアザムには解らなかった。

「……化け物とは少々失礼だ」

 アザムの頭を二回昔のように撫でたら、ゆっくりとルクティの方に向き直る。

 アザムも確認できたエメラルドのその瞳はとても冷たく、小さく薄笑いを浮かべる姿は悪魔そのもの。

「くくっ、悪魔の間違いだよなぁ?」

 銃を瞬時に構えそう言いながら、即座に右肩と両足を撃ち抜き貫通させた。

 そしてもう一発撃と構える。

 だがアザムが構えたその腕にしがみつくように触れ、ベリルの瞳を見て首を横に振る。

 そしてベリルはため息を吐き銃を降ろす。
 
 向こうが戦意喪失している事が、アザムでも十分見て理解できる。

 アザムはすぐにルクティに駆け寄り、近くにあるものと、ナイフで切り裂いた服で止血を素早く行っている。

「……ベリルさん、僕早く父さんに会いたい」

 先ほどまでに何人も撃った男達とは違い、今回は放置すれば失血死の可能性、それ以上撃てば確実であるとアザムは判断した。

「わかった……」

 ルクティの偏った思想的な発言と、人を人だとは思わない行動。普段掴めない様にわざと感情を隠すベリルが怒りを露(あらわ)にした理由。

 それでもベリルを止めなければと少年は咄嗟に思ったのだ。
 
 アザムはこんな緊迫した雰囲気にも関わらず、少しずつ自分の中の方向性が分かり始めていた。
 ベリルはアザムの行動と思いの一致と不一致に、既に気が付いていたのだろう。
 
 気を使って言ったであろうアザムの言葉に、一瞬苦笑を浮かべ答えた。

「済まなかった。レイを迎えに行こう」

 そう言って手に持っている銃の弾倉を何気に交換し、二人は工場の中に入っていった。