今の生活が幸せだとザザの方向をぼんやりながらも見つめ話す。

 ザザはそれを一度後ろを振り向き見つめ返した事で、意味も無く苛々する。それはパソコンに向かい文字を打っている姿と音から読み取れる。

 一応の作業が終り、エンターキーを力強く押すと席を立ち上がった。

 そしてザザは立ち上がりもう一度近づき、まだ倒れこんだままのレイの前髪を掴んだ。
 
 遠くを見つめている瞳の中であっても曲げない“何か”が見えてる事が腹立たしいと感じていたのだ。

「ふん、真面目だねぇ。だけど俺はいや俺達は“理想郷”を創造する事が本当の幸せだと思ってるの……だからこそレイさんのその頭が必要なんだよねー」


 レイには瞳を輝かせて“理想郷”と言い出したザザの言っている意味が、歪んでいる思想だと感じとった。
 自分の頭が必要というのはウイルスや細菌の培養の事だと、意識が混濁している自分の状態でも理解も出来ていた。

 そのときに見せたザザの姿に、レイは身震いがした。それは六年経って本当に起こしたかった事が、金や世界の混乱では無い事を今実感したのだ。



 その時ザザの言葉への違和感に反応している、違う自分の姿が有る事に違和感を感じる。その違和感は麻酔薬の副作用によるものだ。

 経口や粘膜からの摂取と医者が麻酔として行う静脈投与とは今も昔も、別物でもあり病院であれば副作用の処置も出来る。裏で出回る理由は薬から得る事の出来る“副作用”が目的。
 
 青磁色の瞳は、揺らいだ黒い瞳の見逃しはしなかった。何事も無かったかのように質問をしてみる。
 

「さっきも言ったけど、あの子ども本当にレイさんの事、慕っていると思っているの?」

 そう言うと、髪を掴んだ手をザザは離してやる。そして薄笑いを浮かべながら話を続ける。

「ごめんねー、勝手に見ちゃったんだけど、二階にはそれ以外の武器や危険物の本とナイフだって――」
「そ、それ……は、ただ」

 家で反論していた時とは明らかに違い、言葉が紡げずに完全に瞳が揺らぐレイの姿がそこにはあった。単なる意識の混濁から、混乱と疑念が混ざり始める。