アザムに“何度も起こした”と言っている男性は、六年前の公にはならなかった事件の実行犯の一人である。

 そうウイルスと抗体を打った本人のレイである。

 

 レイは現在三十五歳で、六年前はやせ細り、冷たい瞳をしていたせいか、実年齢より年上のように見えた。
 今はそのような雰囲気とは違い、歳相応又は若くも見える。

 昔伸ばしていた黒髪は、少年を引き取った時にばっさりと切り、現在は襟足に掛かる程度で、前髪はその黒い瞳には掛からない長さで、後ろに流して固めてあるためとても清潔感がある。


 テーブルには、アザムの分もロールパンとベーコンエッグがワンプレートで置かれ、横には牛乳が用意されている。
 しかしアザムは、立ったままロールパンを掴むと、押し込むように口に入れ、牛乳で流し込む。
 そして羽織っただけの白いシャツのボタンを口を動かしながら止めている。

「今日は少し遅い時間になるかもしれないのが……き、聞いてるかい?」

 レイにそう言われアザムは数回頷く。それを見てため息をつくレイだが少し笑っている。
 ダイニング部分に掲げられている時計を見て慌てる。

「うぁ!? 本当にマズいかも。父さん、行って来る!」
「え、はぁ……気を付けて行くんだよ」

 結局パンと牛乳だけを口にして、出ていくことになったアザムの姿を、ため息で見送るレイ。