そして、ベリルにもその名前に記憶があったのだ。

 『ザザねぇ。ザザディッシュ=ディルかザザ=ディズって奴が居るはずだ。後スピナを検索してくれ』

 ザザという人物の略称、本名、偽名……人は偽名であっても反応しやすいように似た名前や韻を踏んだ名前をつけたがる。

 偽りである自分への安心感も含めて。
――スピナは‘あちら側’で語源は‘棘’。爆破より細菌兵器の方がスマートにでも見えるというのか?

 暫くするとティーロの声が聞こえる。

<本当です。ありました!! しかしスピナって――>
『どっちにも嫌われている……だろ? まあ、アザムも知っている様だしこれで敵には繋がったよ』
<ベリル殿、援軍は必要ですか?>
『いや――』

 人が多い事が常に良いとは限らない。逆に被害が増える事もある。

 アザムを危険に晒さないためなら他人に任すことも考慮するべきだが、逆にレイが絶対に安全という保障は無い。時間的に行動を起こす方が早いとベリルは推測している。


 アザムは久しぶりに見たその姿に、恐怖を感じていた。


 繋がった答えから導いた獲物を見つけ出した、獣の様な青年の姿。薄笑いを浮かべながら、暗闇でそのエメラルドの瞳を光らせた。

『しかし回収は必要だ。こちらには人は向わせてくれ』
<では、了解いたしました>

 そう言って電話を切り、言われる工場まで急いで車を走らせた。