「出来れば、お前を此処に置いていきたい。これは遊びじゃない」
「で、でも……」

 アザムは元から否定される事は感じていた。

 それは、ベリルでなくとも誰であってもその判断を下しただろう。

 傭兵になりたいと言った人物なら他人が拉致現場に遭遇したなら、“行く”と言い出す。
 その言い出した人間の能力や、本気度を見極める場合であれば、それも選択の一つだと言える。

 しかし、今この少年が置かれた立場は、過去の話から始まり現在に至るまで、細い糸が絡み合い複雑化され、唯一の身内となった養父が消えた。

「お前も父親も危険に晒され、最悪は命に関わる事――」
「それが本心なら僕を殴って、縛り付けてでも……置いていけばいいじゃない?」

 

 ゆっくりとした口調の口調で答えるアザムにベリルは少々呆れている。

 しかし一瞬だがベリルは自分と同じ眼光を少年に見た様な気がした。

「はぁ、そう返ってくるとはな」

 わざとらしく両掌を上にあげ首を二回振る。そして一言受け加える。

「それに這ってでもお前なら、勝手に車に乗ってきそうだよ」
「な、なんなのさぁ! どういう意味だよ」

 眉間にしわを寄せ、ムッとした表情を浮かべるアザム。


 これ以上アザムを引き止める事は無理だと判断をしたが本当のところだ。

 
 ベリルは関わる人の命は全て優先だと考える。

 心の無い非道な人物は別として“命令”という事で動かざるおえない一兵士だというのであれば敵でも助ける事も考えなければならない。
 
 人の命は“限りあり、そして簡単に奪える”一兵士もアザムもレイもこの世に存在する生物は例外など無いと考えている。
――私を除いてだがな……

 
 ベリルは深いため息を一つ吐くと、アザムの背中を強めに叩いて“行くぞ”と合図をし立ち上がった。

 それに反応しアザムも頷き立ち上がりベリルの後を歩いていく。