二人は二階に上がり、まずはアザムの部屋の電気をつける。


 酷くは荒されていないが、医学書関係の本やレイに借りたであろう資料は少し散らばっている。

 ごく小さなナイフも二本わざとらしく床に放り投げる様に置いてあるのが目に付いた。

 ベリルは本棚と机の引き出しなどを開けて中を見ている。

 アザムが武器や危険物等様々な本を所有している理由は先ほどの事で分っていた。アザムは片っ端から傭兵にと考えた時、本を買い集めたのだろう。

「医学関係……あと、武器と危険物の本ねぇ」

 
 しかしわざとらしく表に出されている理由が分からない。

 それも見た目は無造作に見えるが、実は無闇に出されているのではなく、机の引き出しや本棚の奥に隠されているままの本がある。

 無線や軍隊のような危険と判断するには少々無理がありそうな本は、全て仕舞われたままだからだ。


 気を紛らわすためでは無いが少しだけ本について話す。

「本だけでは無理があるだろ? 実際の戦闘や武器の扱いは違うものだしな……」
「――本当は一緒に居た一ヶ月の記憶はもっと鮮明だと思っていた。けど時が経てば記憶は思い出とだけなって、奇麗にしか残されていなかった……」

 
 笑える状況では無いのだが、無理に笑おうとしているアザムが痛々しい。

「そうだな……それだけ“今を生きている”という証拠ではないか?」

 瞳を細めるベリルは少年にそう答え、少年は下を向き少し微笑んだ。