アザムは携帯から聞こえる情報を、苦しみながらも理解しようとしている。
 涙を浮かべながら真っ赤になっている瞳をベリルに向けた時、携帯電話が目に入る。
 
 震えている指をベリルの方向に指しながら言う。

「ねえ……父さんはそれと似た――」
「ん? 携帯電話の事か」

 そういうと突然椅子から、レイのカバンと上着を自分に引っ張ると中身を全部出していくアザム。
 カバンの横のポケットから見つけた一つの携帯電話を、納得するように頷きながら手にする。

「これは、僕とおそろいの携帯電話。だけど父さんが病院で渡されている電話は、基本的にスーツのパンツにチェーンで固定している。家の中でも近くに置いて、肌身離さず持っている……」
「くくっ、思っていた以上に冷静な判断だ」

 どちらかと言えば感心しての苦笑いを今度は浮かべるベリル。


 レイが持っているもう一つの携帯電話は少し古い機種ではあるが、ベリルが持っている特別仕様の物と同じ型。

 傭兵に協力している病院、又は人に渡している事がある。
 ペースメーカー等、他の機械に反応しないようになっているので、院内で使うにも都合が良いらしい。

 後特殊な構造で着発信で電波を拾わなくとも、番号でGPSを簡単に探知する事もできる。特殊な事をしなければ逆探知も出来ない。
 
 そして、本人からある程度離れれば一定時間で機能が停止するという仕組み。

 今は昔より改良されているようだが、基本的には傭兵達が使いやすいようにされている。

『ティーロ聞こえているな? レイの番号を追ってくれ』
<ではスハイツと一緒に追跡をします。あとそれと……アザムきっと父さんは大丈夫だからな!>

 ティーロは迷いながらも一言だけ、自分の本心をアザムに残すと追跡のために電話を切る。



 ベリルはアザムの頭を撫でると、アザムは顔を向けベリルの瞳を力強い目線でじっと見る。

「言いたいことは……分っている。まず二階のお前の部屋から見せてくれ」


 どちらにしても、ティーロからの連絡がなければ向う所も皆目検討がつかない。無茶承知で探すとしてもそれすら出来ないくらいの状況に立たされている。