ベリルは険しい顔をしながらため息を漏らし、一度ティーロへ電話をかけると、携帯をスピーカーモードに切り替える。
 アザムにも内容が聞き取れるようにする。これが繋がるのであれば全てを知る方が隠されるより良いと考えたからだ。


<ベリル殿どうかなされましたか?>
『ティーロ、戻れそうも無い――』
<何かあったのですか? あったのですね……>
『レイが拉致された可能性がある。そして、情報は?』

 ティーロもベリルも冷静に話してはいるが、緊迫している事がわかる。私情を挟まず傭兵の一員としての判断を、辛い事だが優先している。

<まず、遺体で見つかったのはカビーノ・ベール。他州の大学病院でかなり有能な医師です……>

 遺体と聞きアザムは体を一度ビクつかす。その様子をエメラルドの瞳を細めて一度見る。

『そうか……レイと接点はあるか?』
<接点というほどは……ただカビーノはウイルス学を扱っています――>
『レイの過去は基本他人は知らないはずだが?』
<医師としての能力の高さが……>

 その会話を他人が聞けば淡々としているが、ベリルもティーロも冷たいわけではない。そこに感情を出す事は感覚を鈍らす。

 本当は、アザムの様に少しでも感情を出せるなら、その方がどれだけ楽なのだろう。それが仲間だとしても自分の家族だとしても、時に冷静でなければならない。

 個人経営の総合病院クラスで目立たぬようにとベリルも気遣い、レイ自身が静かに暮らせる地域、信頼出来るレドリーを紹介した。

 研究者としての道が本業だったが、医師としても高い能力があったようだ。レドリーが良く褒めていたからそれは知ってはいた。
 しかしレイ本人は命と向き合う事での償いと、アザムとの暮らしを大切にしていただけだったのだろう。

 
 過去のデータは名前はそのままだが、ベリルが巧妙に修正してあるため、本当の事はレドリーとティーロだけが知っている。
 
 他人からしたら突然現れた秀才、又は邪魔者。
――自分より有能だとレイの名前を出したが、事実を知られているため結局その医師は消されってところか

 ベリルはそんな事を思い、ティーロと会話をしながら呆れて苦笑いを一度浮かべる。