強張った顔をしながらアザムはキッチンに入り、電気をつける。

 
 レイのスーツの上着とカバンはキッチンの椅子に置かれている。アザムが基本的にいつも見ている風景。

 しかし、アザムの学校のカバンに入れていたはずの武器類の本がテーブルに投げ捨てるように置いてあった。
 だが、荒らされている形跡は殆ど見あたらない。

 
 だからこそアザムは、一瞬状況が飲み込めなかった。

 この本を見つけてショックを受けたのか、緊急の手術が入ったのだろうかと、あれこれ自分の都合の良い方に考える。

 だがすぐに、レイはどんな時でも本を乱雑には置かない事、手術での呼び出しであれば連絡や伝言やメモくらいする事はすぐにわかった。

 レイが自分から外に出て居なくなった可能性が低いと判断。そしてアザムはその判断に今にも泣きそうな顔をして、壁にもたれ崩れ落ちるように座り込んでしまった。


 もちろんベリルは周りの状況を見て当たり前のように“何かあった”と瞬時に把握していた。
――もっと取り乱すかと思ったが……“傭兵”にとか言うだけはあるな

 アザムの予想以上に慌てる事の無い判断に、感心できる部分を見出すほど冷静だった。

 
「どういう事? 何で……――」
「アザム、お前はここに居ろ」

 “何も”知らないから飲み込めない部分もあるが、泣きながらも首を横に何度か振るアザムの姿がそこにはある。

 ティーロが呼び出されたのは事件での情報で、それはまだ憶測の範囲ではあるがレイの失踪にも関係している可能性を持っているからだ。

 そうレイは医者であり、六年前の事件を起した元製薬会社の責任者だという事が繋げてしまう要因だ。