そして家の一番近くの曲がり角でベリルは、ガレージが空いているかをアザムに確認している。

「うん、道狭いからちょっとの時間でもいれた方が……――」

 話しをているうちに、家の手前にさしかかった。そこでアザムの会話が止まり何かを訝しげに家のほうを見ている。
 夕方よりもう夜に近い暗さなので、家には明かりがついているはずだと思い込んでいた。しかし、そうではなかったからだ。


 レイが勤める病院はスタッフの事を一番に考えられている病院。

 夜勤明けの時は体調を考慮し、基本的には休暇となっているシステムのため、レイは家に普段帰っていて、その時は夕飯を作る約束となっている為だ。
――普段と何かが違う?

「帰ってない? いや……門が開いている?」
 
 そう小さく呟く姿を見て、ベリルはその言葉に冷静に返す。

「正しくは“帰っていた”という事か?」


 そして険しい顔をアザムに見せたベリルに、蒼白した不安な顔を返したので、すぐに車を家の前で止める。

 
 アザムは、飛び出すように車から出て門へ向う。

 開いたままの門が、扉に鍵が掛かっていないと直感的に判断を下させた。そのまま疑問もなく玄関部分へ入る。
 
「父さん? 父さん!!」

 大きな声で叫ぶアザムの声に、返事は帰ってこない。


 ベリルも車を邪魔にならないよう家に横付けし、すぐに駆けつけ玄関部分に入る。
 人の気配が全く感じられない事、危険性が無い事は瞬時に判断していた。

「……アザム、誰も居ない」

 そう言ってアザムの肩に触れ、首を小さく横に振るベリル。