傭兵や軍隊など人の命をやり取りする場所に簡単に“いいよ”とは誰もが言いにくい。
 関わっているからこそ、よく考えて答えを出して欲しいのが事実でもあり、甘い仕事では無い事はよく知っている。

 
 命を助けるという仕事と、時には人の命を奪わなければならないという二つの方向性。相反する職業に憧れていた人物が、単なる一時的な憧れだけで言っているのであれば“だめだ”で押し切れるのだ……。

 憧れだけではない感情が感じとれたため“面倒だ”と振り切り一蹴するに出来なく、真面目にベリルもティーロもアザムに向き合った。





「そうだよね。それでも相談して良かったと思っている」

 本当に誰にも相談できずにいた事を考えれば、少年にとって話せるだけでも救いだった。

 父親であるレイを裏切る事になるのでは無いかとずっと不安に思っていたが、“話さないことの方が裏切っている”とベリルにきっぱり言われた。

 その言葉に、頭を整理し冷静になった。そして踏ん切りがついたのも事実なのだろう。

 ベリルに“ありがとう”と付け加えると、素直で優しい笑顔を見せた。

 レイが患者へ向ける笑顔にそっくりだとベリルはその時思った。

 それと同時に、やはり反対すべきだったのでは? と心の中でベリルは一瞬迷い小さいため息のようなものを漏らした。

 だが、二人で話し合いはやはり必須。
 最後はアザム自信が決める事だと、レイが悩みながらもそう話していた事を、忘れたわけではない。

「きっかけは作ってやる。後は自分の言葉で話すんだ」

 ぶっきらぼうな言葉をベリルは吐く。その口元は微笑んでいる。

「うん、父さんときちんと向き合ってみるよ!」

 決心を固めた少年は、小さなカバンを膝に置き少し力を入れて握っていた。