「……あの、それでね――」
「あ! そうそう、今日ベリルさんが来たんだよ」
「え? あ、そうなの?」

 アザムが何か言いたそうな言葉を遮った形で、レイはベリルが病院に来たことを報告した。“ベリル”と言っても反応が薄かったような気がしたので一瞬だが、訝(いぶか)しげな表情を浮かべ訊ねた。

「あ、何だったのかな話の続きは?」
「え? いや、父さんなら数学わかるから後で聞いていいかなって、尋ねようと思ったんだ」
「それなら、いいんだが……」
 腑に落ちない顔をするレイに、アザムは思いっきり笑顔を見せた。

「で? ベリルさんは何をしに来たの、すぐ帰るの?」
「来たのはちょっと今後の事だったんだがな……。ティーロも数日中にこっちに来るらしく、時間を合わしてアザムにちょっとでも会う様に考えてくれるそうだ」

 アザムはアザムで、二人に会えることは嬉しい事なのだろう。さっきの事など既に忘れて自然な笑顔を見せる。


「二人とも一緒になんて四年ぶりくらいだね!」

 二人ともベリルには半年に一回は今でも会っているが、ティーロとは一年半ぶりになる。

 確かに一緒に会ったのは四年ほど前だが、あれは任務の関係で病院に薬品を取りに来た時、二人に“出くわした”という方がいいだろう。
 それもまだ衝突ばかりしていた頃で、帰りが遅くなったレイをアザムが怒り泣きして病院まで迎えに来た時。

 それを思い出して、笑いを堪えていたが吹きだすレイ。

「あー! 今、あの時の事思い出したんだろ! あの時はまだ子どもだったの!」
「そうだね。今もこれからもずっと、君は私の子どもなんだよ――」
「あ……うん! わかってるよ」

 照れくさそうに頷き、返事をするアザムの姿に、その後が上手に紡げなかったレイだったが、アザムは言いたいことはちゃんと理解をしていた。
――今、僕が本当に悩んでいる事は言えない……

 だからさっきはぐらかした話は、アザムは心の中に仕舞いこんだ。

 
 逆にその様に思ってしまったのだ。そう父親の優しさに触れる事で――