幸福論



途中、車内は色を変え始めた。

行楽客が増え始めた。

そっと、幸谷君の胸から離れて、扉近くの手すりに手を掛けた。






「うわ、いっぱい乗って来るね。」






駅構内に滑り込んだ電車。

開く扉の前に並ぶ人々。







「俺らの降りる駅、海水浴客いっぱいやからな。

有名な海水浴場あんねん。」







「へぇ…。

だからだね?

みんな、カラフル。」






「(笑)。

そうやな。」






段々、増えるのは、海水浴客っぽい家族連れや、カップル。

大きな浮き輪を持った集団は、ちょっとだけ幸谷君達を彷彿させる。

明るい髪。

乱暴な言葉使い。

少し場違いな賑やかさで、私は気後れして幸谷君のタンクトップの裾を摘まんだ。

その手をギュッと掴んで、手を繋いでくれた幸谷君が、耳元で私を宥めた。







「後、駅三つやから、ちょっと我慢せぇよ。」






優しい声と優しい手。






「内緒の場所が先?
海が先?」






そう聞いた私に、口端を上げた幸谷君が「海が先や。」って笑った。