幸福論


いつも乗る二両編成じゃない電車。

私は幸谷君に手を引かれたまま、少し込んだ車内、扉近くに導かれた。

そっと離された手。

見上げた幸谷君の顔は、やっぱりどこか不機嫌で、形のいい眉は顰められて、眉間に皺が刻まれていた。






「…なんか、怒ってる?」





せっかくのデート。

しかも遠出。

最初からこんな感じじゃ悲しいよ…。





チラッと私を見下ろした幸谷君が、また視線を車窓へと馳せた。






「…ごめんね…。

あたし、なんか気に障る事したのかな…。」






ふいに込み上げる涙。

そこそこ込んだ車内。

こんな場所で泣くなんて恥ずかしいのに、涙で視界がぼやけた。





こんなとこで泣くなんて、幸谷君に呆れられちゃう。

面倒くさい女…。





でも、さっきから私に向けられる幸谷君の表情は冷たいもので、私は、不安と悲しさで覆い尽くされた。





いったい、何がダメなんだろう…。






「俺、めっちゃ、心狭いねん…。

って、気付いた。」